ライティングの哲学と未来のエディタの話

『ライティングの哲学 書けない悩みのための執筆論』を読んだ。

本書はWorkflowyを使いこなしている文筆家をTwitterで募ってそれぞれの活用法を紹介する座談会を4名で開催したら、文章執筆についての精神性の話題がメインになってしまい、それはそうと3年後に参加者に実際に原稿書かせてみて再度Zoomで座談会して1冊の本にしてみた。という変わった企画だった。

あとがき、が一番この本全体で起っていることを体裁立てて書いてあるので先に読むと分かりやすい。

僕は各人の著書をあまり読み込んだことがないので、実際の執筆の変化は分からないのですけど、3年後座談会では概ねみんな「雑に書いて世に生み出せた時点でえらい」というような方向性でまとまっており、自分と同意見だなと関心した(理科系の作文技術とちょうど対極みたいな)

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アウトライナーの未来

ここからは一旦ライティングの哲学の部分の話題は忘れて、この本を読んだきっかけである文章執筆ツール系の話になります。

僕はプログラミングのコーディングとこういう文筆業のライティングを似たようなものとして捉えており、それは文系プログラマーの局地のような考えだと思うのだけど、2つを統合したような性質を持つ技術ブログというものをアウトライナーを使って10年以上書いてきた経験から「もっとツール側で問題を解決できるのではないか」と思うことが多い。

本書は座談会参加者がWorkflowyユーザーということもあって、エディタやアウトライナーなどの文章執筆ツールについても言及が多い。

各人ともWorkflowyで小説や実用書などのすべての執筆活動を行うわけではなく、スマホからメモを取る、とかエディタAにしたりBにしたりどんどん変える、などの行動を短い期間内で試行錯誤していた*1

これはこのトライアンドエラーも含めて執筆活動ということだと思うのだけど、「TODOアプリはラーメン屋」で書いたような人間の知的生産活動を現状のツールで受け持つのがそもそも難しいんじゃないかという点を思い出させる。

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それでアウトライナーの話なんですけど、僕はこのエディタAにしたりBにしたりの過程に「プログラムでの自動化処理」もできると思っていて、そこに大規模言語モデルさんのパワーが使えるのではないかと考えている。

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参加者の一人である読書猿さんにもそういう発言が多い。

一方で、ぼくが書く本を自分の代わりに書いてくれるプログラムをつくれないかなという思いもずっとあります。ぼくの書いている本の中身は既存のものなんです。タイトルとかコンセプトとか構成のアイデアは自分の頭から出たものですけれど、そうしてつくった枠組みに充塡するために中身を世界のどこかから取ってきている。だったらそのルールをプログラムの形で記述して、コンピュータが世界中の知識を巡って知識を拾って勝手に埋めてくれないものかなと 千葉雅也,山内朋樹,読書猿,瀬下翔太. ライティングの哲学 書けない悩みのための執筆論 (Japanese Edition) (p. 213). Kindle Edition.

OpenAI APIを裏で呼び出すWebのアウトライナーでもマシン上でモデルの推論を実行するデスクトップアプリでも、VS Code上の拡張で実現するでもどんな方法でもいいんですけど、システムに日本語入力システムがあるのと同じレベルで言語生成・編集機能が付いてる、っていうものを未来のライティング環境として想像している。

なので、階層のリストを要約して自動で親項目を挿入したり、箇条書きリストを自然言語で分類し直したり、マクドナルド理論よろしく*2 各項目を置き換え前提のテキスト補完を入れてしまう—— とか、今ある技術だけで何とかなりそうなのでプロトタイピングをしている。

『ライティングの哲学 書けない悩みのための執筆論』発刊の2021年時点ではChatGPTブームは来てないのでアップデートするような企画があったら面白そうだ。これだけツールを使いこなしている人達なら色々試しているはずなので

*1:この時点では本の原稿は最終的にScrivener に保存しておくのがトレンドのようだった

*2:https://gigazine.net/news/20130502-mcdonalds-theory/