北山猛邦『『クロック城』殺人事件』

現在、過去、未来。別々の時を刻む3つの大時計を戴くクロック城。そこは人面樹が繁り、地下室に無数の顔が浮き出す異形の館。謎の鐘が鳴り響いた夜、礼拝室に首なし死体、眠り続ける美女の部屋には2つの生首が。行き来不能な状況で如何に惨劇は起こったか?世界の終焉を鮮烈に彩る衝撃のメフィスト賞受賞作!!
出版社/著者からの内容紹介

若い読者向けの本格ミステリです。ページ数も257Pと薄く気軽に読めます。ライトノベルを普段読んでいる人ならすんなり入り込めるでしょう。
地球規模の磁気異常が起こり一九九九年九月に<終わる世界>という設定は世紀末ファンタジーを思わせます。この退廃的な世界観作りには成功していうように思えました。全編にどことなく、もの悲しさがつきまといます。
が、この世界観もあってミステリにしてもキャラクター小説にしても、ちょっと地味な印象を受けました。ファンの人はこういう風にいわれるのはいやでしょうけど、例えるなら西尾維新を薄めたような感じです。文章もあまりリズム感がないです。三人称視点で綴られているんですが「○○は▲▲をした」等の描写の繰返しで、もうちょっとヒネリがあっても良い気がします。
終盤の物語の「真相」はご丁寧に袋とじになっていて「本文208項の真相を他人に喋らないでください。」と、よく使われる「なにクス・センスだよ」というかんじの注意書を打っているのですが、逆にそれが物語のどんでん返しを過度期待させてしまって、少々物足りない感じでした。本格ミステリを読み慣れてる人にとってはトリックも新鮮みがないと思われます。ただホントにこのトリックを使いたかったが為に用意された『クロック城』、それに連なる死体の首を切断した理由なんかは強引な力業で驚きました。
あとにラストでブツリと切れるよう、急に終わってしまった物語に違和感を覚えました。こういう終り方もありなんでしょうか。なにか「締め」が欲しかったです。
私感ですが、この作家はミステリにこだわらずにこの<世界>を利用したファンタジー部分に力を入れた方が良いような気がします。この一作だけではハッキリ判断できないんですが。ネットのレビューでは、どうやらデビュー後に出した作品群の方が評判が良いみたいです。
【2】

『クロック城』殺人事件 (講談社ノベルス)

『クロック城』殺人事件 (講談社ノベルス)

お薦め書評

UNCHARTED SPACEのフクさんによる分析がなかなかうなずけました。


最近刊行される一連のミステリにおける「要素」、という面についてはよく分析出来ていると思う。(天然かもしれないが)。
すなわち、奇怪な館、美形キャラ、シリアルキラー、科学的(ないし歴史的)蘊蓄の引用、キャラ萌え、設定を利用したトリック、密室、どんでん返し。 
なるほど。ここら辺の「要素」は最近の若いミステリ作家の作品には共通していますね。
あと南深騎(主人公)は男ですよね?