『世界で一番ゴッホを描いた男』とプログラマー

深センの大芬という街でゴッホの複製画を20年に渡り描く趙小勇という職人の男性に密着したドキュメンタリー(原題はChina’s van Goghs)。

215. 見てない映画を紹介します | Ossan.fm で知ってウォッチリストの中にあったので消化した。

身に覚えのあるクリエイターに打ち所悪く刺さる蟹工船的な作品、ぐらいの予備知識しかなかったが、実際に観てみると、なんとなく想像していたよりもはるかに面白かった。

プログラマーにも刺さると思う。

engineerとdeveloperでレスバが始まるやつじゃん

趙小勇は20年という長い期間ゴッホの複製画を描いて生計を立てている。複製画はオランダのアムステルダムなどのヨーロッパ方面に納品され販売されているらしい。

この仕事が儲かり、金になるからやっているというわけではなく、ゴッホの絵を描くことが好きだからやっている。

むしろ低賃金で全然金にならなく過労働なので職人は減っている。工房には趙小勇と同じく志しを持った絵描きたちが集まり日夜ゴッホを書いている。趙小勇の妻も同じ工房の職人。

さながら大規模システム開発現場の末端組織のSEのようである(本作内の複製画の商流に多重請負のような構造があるわけではない)。

趙小勇はキャリアが長いので後輩や弟子を指導する立場もある。成果物の品質を自身でチェックし改善したり、自分の望む技術に進んでよいのかとキャリアに悩む若手に助言をしたりとシニア的な振舞いもしている。

みんなの士気を高めるためにゴッホの映画上映会を開催したりする。TGIFに『ソーシャル・ネットワーク』再生するEMじゃん。

一方自分のキャリアにもかなり悩んでいて、このまま複製画を描き続ける人生でいいのかと日々自問自答している。

ゴッホの原画を自分の目で見ることでその答えがわかると考えた趙小勇は貧しい生活の中、大金をはたいてアムステルダムゴッホ美術館を行くことを決意した。

たぶんシリコンバレー行くぞみたいな心境だと思う。

出発前にパスポート手続きに帰郷し、親戚たちと過した後昔のことを思い出したのか趙小勇はカメラに向って自身に学歴がない=貧しくて学校へ通えなかったことを語る。

自分もCS学ばず高卒でプログラマーやっている立場なので分かるで〜と思いながら聞いていた。

そしてゴッホ美術館に出向く場面はこの作品の一番の見所であるんだけど、映像でしか表現できてなさそうなものを文字で説明するのは無粋なのでここは見てほしい。

僕が注目したのはアムステルダムで自分の複製画が納品先で実際に販売されているのを見た時の趙小勇の反応。自分の作品が市場でどのような価値を持っているものとして扱われているのか、というのを彼が期待していたものとギャップがあったようだ。

20年越しにそれが分かるというのもなんともせつない。

帰国した趙小勇はオリジナル作品の制作に乗り出すんだけど、この辺も見てて「代表的プロダクト」を残したい個人開発者の心理をついてるなーと思った。

kentarokuribayashi.com

ハッカーと画家」という有名なエッセイにハッカープログラマー含む)と画家は似ているという話が出てくる。

practical-scheme.net

本作品になぞらえると、意図せずして大企業に搾取されている形になってしまうOSSメンテナーの問題などにも通じるだろうか。