テック業界で影響力を持つためには
"How to be a tech influencer."には、「テック業界で影響力を持つためにはどうすればいいのか?」という相談者の問いから「質にフォーカスした少数のコンテンツでプレステージ(評判)を築くのが効果的」との説明が述べられています。
この記事を書いたのは、『エレガントパズル』や『スタッフエンジニア』の著者であるWill Larsonで、彼はエンジニアリング組織の技術リーダーシップの専門家としても知られています。
近著『The Engineering Executive's Primer』の「Chapter 12: Building Personal and Organizational Prestige」には、このブログ記事の内容が含まれており、組織の技術トップにおいて個人および組織の評判を築くことの重要性が掘り下げられています。
プレステージ(評判)とは
ここでいうプレステージとは、周囲の人々があなたやあなたの会社について良いイメージを持っている状態を指します。
本記事では固有のニュアンスを持っているのでプレステージという言葉をそのまま使います。
これはブランディングやマーケティングのような能動的な活動とは異なり、優れた仕事や質の高いコンテンツを通じて自然に形成される他者の意識です。
このように築かれた評判は、キャリアや人材獲得においても有利に働き、長期的に信頼される存在となる基盤を提供するとされています。
影響力と技術ブログ
私はこれを技術ブログ論としての側面から注目して、Will Larsonが影響力の解釈を「人々に業界にある既存の考え方や価値観の変化を促せること」としている点に感銘を受けました。
これは私が普段ブログ執筆で達成したいことと近く、同じレベルにはまったく達していないものの(名前は似ているが)、目標として繰り返し参考にしたいと感じています。
つまり知名度ではなく影響力を持つためには質の高いコンテンツを制作するための戦略が求められているわけです。
プレステージを構築する方法
プレステージを構築するためには、すでに評判の良い集団に参加するのが最も近道だと説明されています。
例えば、開発者体験が良いイメージのある企業ランキングの上位企業に所属して、企業の持つ発信力の一員として名前を出して参加する、ということが該当するかもしれません。
しかし、居住地や環境の制約から、それを実現できる人ばかりではありません。 あいにく私もそのような機会がありませんでした。
そこで、再現性の高い方法として質の高いコンテンツを作ることに注力しましょう。
コンテンツは量産するよりも少数でも質の高いものを作るべきであり、さらにそのコンテンツにアクセスしやすくするのがキーポイントです。
影響力の指標をどう計測するのか
そもそも影響力の適切な指標を持つのは難しい問題です。
それをどのように測定するかについては、多くの議論の余地があります。
PVやフォロワー数、売上、投稿数といった数値は一般的な指標として使われがちですが、それらはしばしば誤った指標とされています。
なぜなら、これらの数値はコンテンツの質や影響そのものを必ずしも反映しないからです。
Will Larsonは「コンテンツが人々の行動や考え方にどのような変化をもたらしたかや、あなたにアドバイスや意見を求めてくる人の数は、影響力を測るための重要な指標といえるでしょう。 」と言及しています。
私はこれを読んで今までまるで関心のなかった匿名質問受付サービスの有効活用法を見出しました。
確かに私の思う影響力の高い人々は匿名質問受付サービスに熱心に回答している気がします。
そして私は質問が全然来たことはないので影響力のなさを痛感しました。
質の高いコンテンツを作るために
質の高いコンテンツを作るには、普遍的なテーマと独自性のある視点が必要です。
これらの要素が揃うことで、コンテンツは長く参照されるものとなります。
特に、繰り返し議論されているようなニーズのあるトピックを選ぶことが重要です。
たとえば、日本のテック業界で多く言及されている「質とスピード」に関する講演は、普遍的なテーマを扱いながらも独自性を持った視点を提示しており、質の高いコンテンツの好例だといえます。
このようなコンテンツは、議論を呼び続ける力を持ち、時代を超えて価値を提供し続けます。
自分に合った形式で発信する
そして、自分に合った形式で発信します。 Will Larsonは、ブログやカンファレンスでの講演といった形式が最適と説明しています。
十分に短く細かい試行錯誤のフィードバックループが回しやすいからです。
これらに比べてポッドキャストや書籍は反復のサイクルが長く、難易度の高い形式といえます。
私自身、ポッドキャストを聞いたり本を読むことは大好きですが、それを自分で作るとなるとハードルが高く、未だに手を出せていません。
それでも、fukabori.fmなど現にポッドキャストを中心に質の高いエンジニアリングのコンテンツで影響力を発揮しているといえるクリエイターも存在します。
自分に適した形式を選ぶことでコンテンツを持続的に発信しやすくなる点は大切だと考えています。
プレステージを構築するためには数年の期間が必要
プレステージを構築するには、少量の質の高いコンテンツを数年かけて繰り返し発信することが必要です。
しかし、プレステージは受動的な結果であるため、活動時間に対して定量的な成果が得られにくい特性があります。
それゆえ、持続する努力が不可欠です。 そのためには、標準を定めて一球入魂の姿勢で取り組むことにしています。
実際に、当サイトでさえも一時的なバズで消費される記事と、それを超えて繰り返し参照され言及され続ける記事*1に二分化していることからも、持続性と質がいかに重要であるかが分かります。
デリバリーの戦略
作ったコンテンツを多くの人に見てもらうには、デリバリーにも戦略が求められます。
その目的は、ターゲット層がコンテンツにアクセスしやすい環境を整えることにあります。
これに関してできることはたとえば、ターゲット層が参加しているコミュニティに自分も積極的に関わったり、年齢層に応じて適切なSNSを選択したりすることが挙げられます。
私は個人開発者や特定のOSSユーザーが集まるコミュニティや、シニア層が多い「はてな」、若年層が集まる「X」クラスタなどを意識的に活用するすることにしています。
また、評判の掛け算を生み出すために、コンテンツをシェアしてくれる読者を作ることもその助けになります。
私にとっては、@mizchiさんや@azu_reさんのような、以前から認知があり業界内で評判の高い人によるシェアが、このサイトへの多方面から多くの人が訪れるケースになっています。
さらに、質を保ちながら継続的に発信を続けることで、認知度を着実に高めることができます。
私はとくに文章を書く習慣が途絶えると、質を担保する前提である執筆活動ごと生活の中からなくなりやすい性格のため、「日記を書く」というリマインダータスクを毎日設定し、発信を習慣化しています。
最後に:批判との付き合い方
あなたの発信に対して多少の反対意見が来るのは、既存の思考を変革するものである証拠として、むしろ良い兆候といえる、とWill Larsonもコメントしています。 これには同意です。
ただし、短期的な議論を呼ぶことを目的とした内容や表現に手を染めるのは望ましくありません。 それでも自覚してコントロールは難しく、私も意図せずこの状態に陥り、後から反省しています。
私の場合、影響力の度合いはウェブ上でどのような反応があるかを指標として活用しています。
むしろ何も反応はないがとりあえずシェアされる、というのが十分な行動を引き出せなく不甲斐なさを感じる場面です。
賛成する感想を持つ人がいた場合、それは自分が届けたい読者のリストに追加すべき対象になります。
一方で、異なった考えを持つ人がいたら、その人の立場を理解しようと努めます。
また、正確に伝わっていない人がいた場合には、コンテンツの内容や記述方法を見直し、内容に誤りを発見したら加筆や訂正を行います。
このように、周囲の反応を活かしながら改善を続けることで、より多くの人に影響を与えるコンテンツを目指していきたいですね。
*1:繰り返し参照され言及され続ける記事: https://laiso.hatenablog.com/entry/nope-sql とか