浦賀和宏『時の鳥籠』


私は、この子がそう遠くない未来に死んでしまうことを知っている―初対面の少女の自殺を、何故か「私」は知っていた。「私」の生まれてきた理由は、その少女を救うためだから…。少女に出会った途端、意識を失った「私」が、過去を語り出すとき、日常は、呆気なく崩壊していく…。著者の感性が全編に横溢する新エンターテインメント。

やったぜメビウスマトリョーシカ

前作の主要人物・浅倉幸恵が再登場し、語られなかった部分が補完されつつ、更に物語が進行・逆行するというサイドあるいは裏ストーリー。前作を既読で、なおかつその鬱っぷりや童貞臭に萎えなかった人にはお薦めします。
全体に漂う独特のどーしようもない暗さは変わらずに、今回は時を遡った少女のお話。枚数も前作同様多いけど、前作よりかったるい蘊蓄やまどろっこしい問答が減って読みやすいくはなってると思う。長さに負けず読み進めていく打ちにだんだんおもしろくなっていくので安心して下さい。これはもうこの作家の特徴なのかな。スロースターターというか、助走(序奏)を長く取るというか。(吸血鬼パートは邪魔な時もあったけど)
SF部分、藤子不二雄から各種SF小説、はてはTVドラマ「世にも奇妙な物語」「君といた未来のために(これ好きだった)」までにも見られる、タイムパラドックス問題「過去にいって歴史いじくったら未来はどうなんの?」にたいしてもひとつの答えが提示されている。そして繋がるオチがたまげた、もっとこじれるかと思ったけどお見事。前作同様、物語真相がタイトルを表してることが分かった時は、素直にうまいなぁと感心した。
この作品を読んでいると音楽に対する記述が頻繁に出てくる(YMO他テクノとかジャズとか)から、なにか落ち着いたシンセの曲とか聴きたくなる。でもうちにそれっぽいCDはないべ。だから、読書中ずっと『ブレードランナー』のサントラ聞いてた。ぴったり。
デビュー作(前作)はそんなに好きでもなかったんだけど、今回たまたまガイド本のたぐいを見てて興味を持ったので2作目も読んでみたけど案外好みそうなのでこのまま読み進めていこうと思います。そして著者近影はやっぱり笑かしにきよる。
【4】

時の鳥籠 (講談社ノベルス)

時の鳥籠 (講談社ノベルス)

おまけ

現代作家ガイド―浦賀和宏」によると。ネット書評家がお嫌いらしい。