大塚英志が著書で触れてたが、この作品の「作品世界」の練り込みようは半端ではない。世界五分ずれた、別の歴史を歩んだ日本は、外国軍の進行によって、日本国民は激減し、残った国民が地下潜り「アンダーグラウンド」を設立させた。だが、「こんな所でのさばる俺たちじゃない、不可能を可能にする〜」と特攻野郎風味で日本軍が起死回生、圧倒的な軍事力と科学力を手に入れた。その頃地上では各国からの移民が大量に押し寄せ、その結果日本の大半は混血児だらけとなった。それが冒頭の調査シーンに繋がってくる。
5分のずれで現われた、もうひとつの日本は人口26万に激減していた。国連軍との本土決戦のさ中で、アンダーグラウンド兵士の思いは、こうだ。「人類に生きる目的はない。だが、生きのびなくてはならない」。
そういえば、チャン・ドンゴン×仲村トオルの『ロスト・メモリーズ』もそんなような触れ込みだったな。「伊藤博文暗殺が失敗に終わり歴史が変わった〜」みたいなの。見てないけど。
*
終始気になってたけど、ゲリラ戦闘シーンやピアニスト・ワカマツのコンサートシーン、それこそ一人の人物を表す描写まで、場面場面の描写が恐ろしく執拗で長く、丁寧と言うよりは言葉をあれこれ継ぎ足して組み合わせているような印象。その割に小田桐(主人公)自身の描写がやけにアッサリしている。読者が読み取れる小田桐についての情報は極僅か。あとがきを読むと、どうやらコレは、狙った設計どうりに作られているらしい。ちょっとついていけなかった部分もあって、もう一度読み直したい感じはする。
*
文芸書評価のセンセイが、巻末で村上春樹との対比をしている。春樹が作り出す作品はエンターテイメントに終始し、読後に読者を安心させはするが、突き動かすモノがない。対して、村上龍の作品は対称的に「ガツンとキタでやんす」。というような解説をしている。俺は両者ともあまり読んでないけど、何となく分かるような、わからんような。確かに、物語の中核となる記述がそのまま出てくる、アンダーグラウンド内の中学校で小田桐が歴史教科書を読むシーンなんかは若い読者に向かって言っているようでもあった。
世界にむけて、われわれの勇気とプライドを示していかなくてはいけません。敵にもわかるやりかたで、世界中が理解できる方法と言語と表現で、われわれの勇気とプライドを示しつづけること、それが次の時代を生きる皆さんの役目です
その他、五分後の世界の住人が歴史の分岐点のシュミレートでまさに現在の日本の歴史の方向へ進んだ時に「日本人はアメリカの奴隷になる、しかも奴隷になっていることにすら気づかない、うはwwwwwwサイアクwwwwww」とかボロクソ言ってるんだけど。攻撃的なドラゴンだなぁ。全体攻撃とかやたら減りそうだ(HPが)。
【3】
- 作者: 村上龍
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 1997/04
- メディア: 文庫
- 購入: 8人 クリック: 137回
- この商品を含むブログ (152件) を見る
余談
Amazonカスタマーレビュー内で自分語りをはじめるひとはなんとかならないんだろうか。別にこの作品のレビューのことを指しているわけでもないけど。