風林火山蟲丸『回覧板殺人事件』

回覧板殺人事件

風林火山 蟲丸

おすすめ平均 
世紀の大傑作!!
衝撃の結末にドッキリです
独創的な世界観と個性の強いキャラクター
とにかく死ぬ前に一度読んでみるべき
綿密な計算から弾き出された論理性


旧世紀の暗雲を引きずったこの混沌としたミステリ界に、高らかな産声を上げて「新本格の"怪"男児」が誕生した。風林火山蟲丸の処女作にして誰もが認める最高傑作。先日、遅ればせながら私もこの作品を拝読した。
プロット立てに、故・手塚治虫先生がデビュー前、雑誌社に投稿した問題作『ゲルモネラくん』を引用していることは周知の事と思う。しかし、この『回覧板殺人事件』では冒頭から『ゲルモネラくん』のテーマを冒涜するかのような展開が繰り広げられる。

長瀞で行われた林間学校の宿泊先として、ホテル「漆黒館」に訪れた探偵のチュパ・カブ郎は、昼食時間にトラウトサーモン入りのおむすびをうっかり落としてしまった。そして、転がってゆくおにぎりを追いかけた先には、なんと担任の苔ヒゲ先生が、全裸宙吊りにんにく醤油まみれといった見るも無惨な姿で殺されていたのだ。犯行現場は誰が見ても密室状態。犯行時刻に漆黒館に滞在していたのはカブ郎と苔ヒゲ先生のみ。果たして「俺がお前で、お前が俺で」なのか!?、
騒然とする館内に、テラスより一羽の矢ガモが舞い降りた。背中には「挑戦状:コンヤ 12ジニ ミンナ 死ヌ 回覧ジャック」と書かれた手紙が……
果たして、回覧ジャックとは何者なのか?そして、カブ郎一行の運命は……

(本書内容紹介より)

この内容紹介は、様々な"仕掛け"がなされており少々判りにくいが、読了後には全ての謎が判明する。"蟲丸的カタルシス"は茨の道を抜けた場所にあるのだ。
さて、こう語ると本書は一見「ミステリ初心者お断り」であるかのように見えるが、そんなことはない。丁寧な専門用語の解説や、小気味良いリズムで頭に入りやすいストーリー展開など、普段読書をしない人達にもお薦めできるだろう。
ただひとつだけ。個人的に思うのは、終盤、回覧ジャックが使った密室トリック(ここでは書けない)が判明した時、カブ郎の「エスパー伊東……」という呟きは必要なかったのではないか。なぜなら、その一言を言ってしまう事で、今まで風林火山先生があえて触れていなかった「学歴社会に対する義憤」という物語の隠されたもう一つのテーマが露呈してしまうのだ。まるで、TVドラマ『踊る大捜査線』を見ているようで笑ってしまう。